木と暮らしの制作所

五感で感じる場所

五感で感じる場所

五感で感じる場所

森のような木々が立ち並ぶエントランスを抜けるとお店が見えてくる。
照明が抑えられた店内は、テーブルごとに柔らかな光の照明が灯され、
どれもがあたたかな家族の集う場所をイメージさせてくれた。

お話を伺ったのは栃木県壬生町にあるkirinoyaオーナーの髙田社長。家業であった桐ダンスの製造からインテリアショップへと大きく舵をきってから30年。沢山の失敗を積み重ね、伝えていくべきことがはっきりとしてきたと言います。インターネットでも家具が買える時代、家具屋がお店を出す意味とは何か。髙田社長の熱いお話をお聞きしました。

今のkirinoyaができるまで

創業から

「桐野屋は創業130年」とはいえ、ずっと家具を販売していたわけではないんだよ。創業当時、桐の下駄作りから始まり、昭和の中頃は桐箪笥づくりを家業としていたんだよ。後を継ぐために家に戻って30代に差し掛かる頃、当時主力だった婚礼ダンスの仕事がぱったりと止まってしまって、それをきっかけに方向転換しなきゃいけなくなったんだな。

変わらなきゃいけない

細々と製造業を続けることはできたかもしれない。それでも変わらなきゃいけないと、インテリアショップを作るために動き出したわけだよ。右も左もわからないから、全国のインテリアショップをめぐってみたり、こうすれば売れるというものがあると思って成功している人の真似をしてみたりもしたんだけど、さっぱり売れない。

気づいたこと

見た目の綺麗さとか、かっこよさとか表面ばっかりを見ていて誰かの真似をしていてもうまくいかないのは当たり前だったんだよな。結局、自分たちのブランドを作らないといけないって気づいたんだよ。その時にはいっぱい失敗してお金もたくさん使った後だったけど(笑)

大切に長くつかうということ

傷がついてもいい

少し前の話、事情があって10年使ったテーブルをお店に並べておいたことがあったんだけど、来る人来る人『10年使ったテーブルの方がいい』っていうんだよ。そういわれて見たら、傷もあるけどほんとに味があるなって。家具は大事にして欲しいけど、傷がついてもいいんだって思って欲しいよね。

直しながらでも使いたい家具なのか

ながく使うためにはメンテナンスや消耗品の入れ替えは必須。テーブルに傷がつくこともある。ソファもクッションが痛んだり汚してしまうこともある。そういった時にメンテナンスができるかどうか、交換できるパーツがあるのかどうかは大切な家具選びの重要なポイントだよね。そもそも直せる家具なのか、直しながらでも使いたい家具なのか。そうやって突き詰めていくとお店にあった中途半端な家具が売れなくなったんだよ。

今だから伝えたいものを大切にする心

「100円ショップで揃えないでください」

小学校で保護者に向けて先生がこんな話をしたらしいんだけど、「6年間使うものですから、100円ショップで道具を揃えないでください。『買い替えればいい』という考えはやめてください。」って。なんでも100円で揃えられる時代、なくしたら・壊れたら買い換えればいい。そういうものを使っていればおのずとそういった考えが育ってしまうよね。子供だけではなく、ものを大切にする心を知らない大人もたくさんいるわけだけど、こういう話をしてくれる先生がいるってのは、ほんとにいい話だなって思ったんだ。

ものを大切にする心

上から目線であれだけど、家具で物を大切にする心を教えられたらなって思うんだよ。だって、みんな知らないんだもの。一回でもそういうものに触れることができるチャンスがあると、良さを知った人は戻ってきてくれる。『あれ以上の座り心地はなかったよ』って

店内でお話をしてくれた髙田さん

五感で感じる場所であるということ

ーkirinoyaさんはより心地の良い空間をつくりたいと2022年に新店舗に移転したー

自分ができること

新しいお店はいまよりもずっと狭くはなるけれど、きちんと伝える場所をつくる。自分ができる事は『そういう世界がある』ということを家具を通して伝えていくっていうことなんだよ。

体感できる場所

入り口としてインターネットはあるけど、写真じゃ伝わらない事を伝えることができる。お店ってそういう場所なんだよな。実際に座れる、木に触れることが出来る、五感で感じる場所、居心地の良い空間を家具を通じて提案するお店をつくりたいと思ってるよ。

お話をしてくれた人:kirinoya 髙田弘さん
書いた人:木と暮らしの制作所 松原千明

インターネットでも家でも家具でも買える時代。
実店舗で存在する意味とは何かを考えさせてくれるお話でした。
松原千明