木が繋ぐものづくりを訪ねて
森や木に関わる仕事に関心のある人と、飛騨地域の事業者をつなぐ「森のバトン インターンシップ見学ツアー」 今回は家具材料の流通をメインに広葉樹に焦点を当てて、川上の林業から川下の建築や家具に携わる企業・事業者までと木材産業の全体像を見て回りました。
実施は6月27日(土)・28日(日)の1泊2日です。
森のバトンとは
10年後も変わらず飛騨の木を使い、家具をつくり続けられるだろうか
「森のバトン」は、「10年後も変わらず飛騨の木を使い、家具をつくり続けられるだろうか」という問いから始まりました。
家具づくりには多くの人の手が必要です。木を伐採する林業者、製材・乾燥を担う工場、刃物を研ぐ職人、塗料屋さん、機械屋さん…。多くの専門家に支えられて、はじめて家具は形になります。
しかし、こうした企業の多くはホームページを持たず、ハローワークや縁故採用に頼っているのが現状です。 そこで、インターネットや求人情報だけでは伝わらない“現場の空気”をツアーで体感してもらい、希望者には後日インターンシップへつながる機会を提供しています。 ※就職のあっせんは行いません。
企画・運営は、高山市で地域産材広葉樹の家具を制作する「株式会社木と暮らしの制作所」と、飛騨地域で広葉樹の価値循環に取り組む「株式会社飛騨の森でクマは踊る」。 両社で始めた「森のバトン インターンシップ見学ツアー」は、現在高山市が主催となり開催しています。
訪問先
奥飛騨開発株式会社
株式会社カネモク
オークヴィレッジ株式会社
飛彈産業株式会社
岐阜県 高山陣屋
澤秀俊設計環境
※訪問順
1日目|2026年6月27日(土)
13:00 高山駅出発
ツアー初日は、高山駅白山口(西口)に集合し、バスで最初の訪問先である奥飛騨開発へ向かいました。当初は、奥飛騨開発が施業を行っている伐採現場を訪れる予定でしたが、台風の影響により現場見学は中止となりました。
13:20〜14:00 奥飛騨開発株式会社/講義(川上)
奥飛騨開発に到着後、代表の柏木さんより、会社の歩みや広葉樹施業についてお話を伺いました。
奥飛騨開発では、伐採した木材を山から搬出する際に「架線集材」という方法を取り入れています。
架線集材は、山の中に作業道を作り、重機を使って木材を搬出するのと比べて、森へのダメージを抑えながら搬出できることが特徴です。しかしその一方で、この技術を担う人材は年々減少しており、奥飛騨開発さんでも以前は2つあった作業班も現在は1つになっているとのことでした。
14:00〜14:20 奥飛騨開発株式会社/中間土場・チップ工場(川中)
続いて、社屋に隣接する土場へ移動し、広葉樹の仕分けや流通についてお話を伺いました。土場とは、伐採された原木が集められる場所のこと。
「土場」を大きく分けると、山で伐採直後の木を集める「山土場」と、そこから運ばれてきた原木をさらに仕分けする「中間土場」があります。
*菌床用チップ用に仕分けされた小径木。チップにするので製材しても板が取れない細い木や曲がりが強い木まで活用することができます。
今回見学したのは中間土場で、山土場で大まかに仕分けされた原木がここへ運ばれ、樹種や丸太の直径などを基準に、それぞれの販路や用途に合わせて細かく選別されていました。
その後、土場に併設されたチップ工場を見学しました。中間土場に集められた原木の多くは、ここでチップへと加工されます。主な用途は、きのこの菌床栽培に使われるチップやおが粉です。工場では、より品質の高いチップをつくるための工夫についてもお話を伺いました。土場で大まかに仕分けされた原木がここへ運ばれ、樹種や丸太の直径などを基準に、それぞれの販路や用途に合わせて細かく選別されていました。
育てるきのこの種類によって、使用する樹種の配合やチップの細かさを変えるなど、用途に合わせた調整が行われています。
チップ事業は約12〜13年前に始まったそうですが、当初はなかなか採算が取れず、試行錯誤を重ねながら現在の形へと発展してきたとのことでした。
木材をただ利用するだけではなく、時代や需要の変化に合わせながら新たな価値を生み出していく姿勢が印象に残りました。
15:45〜15:30 株式会社カネモク/広葉樹の製材・乾燥(川中)
続いて訪れたのは、広葉樹の製材・乾燥を行うカネモクです。代表の森本さんに工場内をご案内いただきながら、広葉樹の製材や乾燥についてお話を伺いました。
カネモクは、国鉄の枕木づくりから始まった会社で、創業当初から広葉樹を専門に扱ってきたそうで、現在でも広葉樹を専門にされていますが、乾燥では針葉樹も一部扱っているとのことでした。
まずは製材工程を見学しました。最初に製材の下準備として樹皮を取り除いています。樹皮を剥ぐのは、虫や石などの異物を取り除くことで、製材機の刃が痛むのを防ぎ、乾燥の過程で樹皮と木部の間に虫が入るのを予防するためだそうです。
製材では、広葉樹は曲がりや個体差があるものも多いので、一本一本の木の状態を見ながら、どのように板を取るのか判断しているとのことでした。
続いて、乾燥についてご説明いただきました。森本さんの後ろにある青い扉が乾燥機です。乾燥工程では、天然乾燥によって含水率を下げた木材をさらに人工的に乾燥させています。
*敷地内に積まれている天然乾燥中の板。
樹種によって乾燥による変化が異なるため、樹種に合わせて約20種類もの乾燥スケジュールを使い分けているそうです。また、しっかりと乾燥させることで、つくり手や消費者にとって安心安全な材料を提供することを目指しているとお話しいただきました。
最近乾燥を行ったというクラロウォールナットの大きな一枚板。もともと乾燥材でしたが、大きな反りが出てしまったためもう一度乾燥をかけて、反りを直したそうです。カネモクさんでは蒸気を当ててゆっくりと水分を抜きながら乾燥を行うので、このような反りの修正を行うこともあるとのことでした。
今回は土曜日でしたが、実際に動いている様子を見てもらいたいということで、工場を稼働させていただきました。ありがとうございます。
15:45〜16:30 オークヴィレッジ株式会社/工房・ショールーム(川中・川下)
続いて訪れたのは、国産材を中心とした家具やおもちゃなどの小物から建築まで様々なものを作っているオークヴィレッジです。
営業部の新井さんにご案内いただき、ショールームと家具工房を見学しました。「オリジンファイブ」と呼ばれる創業メンバーについて、また創業当初から大切にされてきたものづくりに対する想いについてお話を伺いました。
国産材の利用と天然素材へのこだわり、木組みを軸としたデザインの3つを大切にしているとのことで、森や環境に対する思いがオークヴィレッジのものづくりの根底にあるということを強く感じました。
ショールームをあとにして、敷地内にある俳優菅原文太さんの使われていた別荘へ移動しました。天気のいい日はこの庭で朝礼を行っているそうです。またオークヴィレッジでは、定期的に社有林の草刈りや間伐など森林整備にも取り組んでおり、木を使う立場だからこそ森との関わりを考え続けていることをお話していただきました。
工房では、あるおもちゃ美術館へ納める予定のフローリングの製作現場を見学しました。
工房でお話いただいた材料仕入れ担当の西崎さんの「いい木とは、太くて分厚い木ではなく、ストーリーのある木」という言葉がとても印象的でした。
木材そのものの価値だけではなく、その木が育った背景や、人との関わりによって生まれる価値について考えるきっかけとなりました。
17:00〜18:00 飛驒産業株式会社/HIDA高山店 森と暮らしの編集室(川下)
続いて飛驒産業のショールーム「森と暮らしの編集室」を訪問しました。総務課の内木さんにご案内いただき、ショールームの商品を見せて頂きながら、飛驒産業の歴史や現在の取り組みについてお話を伺いました。
創業100周年を節目に、これからの100年に向けて掲げられたという4つの理念「人を想う・時を継ぐ・技を磨く・森と歩む」
家具メーカーとして木を使う立場から、森とどのように関わっていくかを考え、さまざまな取り組みを進めていることをご紹介いただきました。
*小径木や端材を使って作られた「SHINRA」シリーズ
杉の圧縮材を使ったテーブル
これまで家具材としては価値が低いとされていた節のある木材を活かした「森のことば」シリーズや、家具材として利用が難しかった杉の新たな可能性を探る圧縮杉の研究など、森林資源の価値を高める取り組みにも力を入れています。
その他にも木の枝葉から抽出したアロマオイルや土壌改良剤などもあり、家具メーカーという枠を超えて森との関わり方を模索している姿が印象に残りました。
18:30〜20:30 振り返り・交流会/Cup of tea ensemble
1日目の最後は、Cup of tea ensembleにて振り返りと交流会を行いました。 まずは、その日に訪れた各場所で感じたことや印象に残ったことを参加者同士で共有しました。 それぞれ異なる立場から参加したメンバーが意見を交わすことで、新たな視点や気づきが生まれる時間となりました。
その後は、飛騨の食材をふんだんに使った料理を囲みながら交流会を開催しました。一日の学びを振り返りながら、参加者同士の親交を深め、飛騨の森と木に関わる人たちとのつながりを感じる時間となりました。
2日目|2026年6月28日(日)
〜8:45 町なか散策
2日目の朝は自由時間とし、参加者それぞれが古い町並みや朝市など、高山の町を散策しました。飛騨高山の歴史ある町並みや、朝の町の雰囲気に触れながら、地域の文化や暮らしを感じる時間となりました。
8:45〜10:00 岐阜県 高山陣屋(川下)
2日目最初の訪問先は、高山陣屋です。まずはガイドの田中さんより、江戸時代から続く飛騨の歴史について、森林や林業との関わりを交えながらご案内いただきました。
*釘隠しといして施されている「真向兎」子孫繁栄などの縁起物とされていたそうです
飛騨の山々に育まれた豊富な木材は、古くから地域の暮らしや建築を支えてきました。高山陣屋の建物に残る木の使い方や構造からも、当時の人々が木の性質を理解し、工夫しながら活用してきたことを感じることができました。
その後、営繕手の松山さんより、屋根材として使用されている「榑(くれ)」について、実演を交えながらお話しいただきました。
榑へぎとは、木を割って薄い板状に加工し、屋根材として利用する飛騨に伝わる技術です。地域の気候や風土に合わせて生み出された工夫や、木の性質を活かした構造について詳しくご説明いただきました。
師匠から受け継いだという「本物を残せ」という言葉。松山さんは、この榑へぎの技術を未来へ残すため、地元の宮大工の方々に呼びかけながら技術継承にも取り組まれています。長い年月をかけて培われてきた文化や技術を、次の世代へつないでいく責任について語られる姿が印象に残りました。
10:10〜10:40 澤秀俊設計環境/建設現場(川下)
今回のツアー最後の訪問先は、澤秀俊建築環境設計が改修を手がけた宿泊施設です。はじめに、設計業務だけでなく、間伐材や笹などの未利用材を活用した建材づくりにも取り組まれていることなど会社の全体像についてお話をしていただきました。
その後、改修された建物を見学しました。この建物は、もともと築約60年の保険事務所として使われていた建物を、オーナーさんの「民宿をつくりたい」という想いから温浴施設へとリノベーションしたものです。
既存の建物が持つ雰囲気を残しながら、新たな機能を加えた空間には、飛騨の伝統的な意匠や、澤さんたちが自ら制作した建材が随所に取り入れられていました。
事務所の皆さんで作ったという焼杉の外壁
大きなモミの木のテーブル
古いものを壊して新しくするのではなく、そこにあるものの価値を見つけ、活かしながら次へつないでいく。地域資源を活用した建築のあり方を感じる見学となりました。
11:00〜12:00 振り返り/Cup of tea ensemble
最後にCup of tea ensembleへ戻り、2日間の振り返りを行いました。 参加者それぞれが、印象に残った出来事や学び、これから考えていきたいことについて共有しました。
今回のツアーでは、林業から製材、家具、建築、そして地域に残る伝統技術まで、一本の木が暮らしの中で使われるまでの流れを追いながら、さまざまな現場を訪れました。それぞれの場所で出会った方々の言葉や取り組みから、飛騨の森と木を未来へつないでいくためには、改めて多くの人の技術や想いが必要であることを感じる2日間となりました。
12:00 終了・解散
2日間のツアーを終え、振り返り会場にて解散しました。
おわりに
昨年度から、広葉樹を主に扱う企業・事業者を巡る「森のバトン」と、針葉樹に焦点を当てた見学ツアーの2つを実施しています。2つのツアーを通して、私自身も飛騨の木の文化の奥深さや繋がりを改めて実感しました。また、参加者の皆さまにとっても新たな気づきや学びを得る機会となり、この地域や森林・木材に関わる仕事に興味を持つきっかけになれば嬉しく思います。今後も参加者の声を取り入れながら内容をアップデートし、より充実したツアーとして継続していきたいと考えています。また、後日Bコースのレポートも掲載予定ですので、ぜひご覧ください。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。
書いた人/木と暮らしの制作所 迫間涼雅



